ビタミンB群は全8種類あります。オーソモレキュラー栄養療法では、ビタミンB群は「現代人に不足しがちな栄養素の1つ」とも言われ、ビタミンBはどれか1種類ではなく、複合的に摂取することが重要と考えられています。中でもビタミンB1は、私たちの体にとって重要な栄養素の1つです。
ビタミンB1は、エネルギー代謝や神経機能の維持に不可欠な役割を果たしています。この記事では、ビタミンB1とは何か、おすすめの摂取方法などを詳しく解説していきます。
ビタミンB1とは
ビタミンB1は水溶性ビタミンの一種であり、化学的には「チアミン」として知られています。このビタミンは、炭水化物からエネルギーを生産する過程で重要な役割を果たしています。具体的には、ブドウ糖をエネルギーに変換する際に必要な酵素の1つであるトランスケトラーゼの補酵素として機能し、細胞内でのエネルギー産生を支援します。
また、ビタミンB1は神経系の正常な機能にも欠かせない栄養素です。
ビタミンB1が欠乏して起きる病気を、「脚気(かっけ)」と呼びます。この病気は、神経系の障害や筋肉の衰弱などの症状を引き起こし、重篤な場合には生命にも影響を及ぼすことがあります。
生体内での役割
ビタミンB1は「代謝系や神経系に影響を与える」と言われており、様々な役割があります。今回はそれらの中でも主に3つの役割について説明します。
▶エネルギー代謝のサポート
疲れが取れない、集中力が続かない、イライラしがち…そんなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?実はビタミンB1は「疲労回復ビタミン」とも呼ばれています。
ビタミンB1は、ブドウ糖や他の炭水化物をエネルギーに変換するための酵素反応の一部として必要です。具体的には、ビタミンB1はピルビン酸からアセチルCoAへの変換を促進する酵素の補酵素として機能します。
この反応はクエン酸回路の最初の段階で起こり、細胞内でのエネルギー産生を担っています。つまり、ビタミンB1の存在はエネルギー代謝に不可欠であり、エネルギー不足や疲労感を防ぐのに欠かせません。
▶神経系の正常な機能維持
ビタミンB1は、神経系の正常な機能にも重要な役割を果たしています。特に、ビタミンB1が関与する酵素は、神経伝達物質であるアセチルコリンの合成に必要です。
アセチルコリンは神経細胞間の信号伝達に重要な役割を果たし、筋肉の収縮、さらには学習・記憶、睡眠などに関わっています。適切なビタミンB1の摂取は、神経系の健康と機能を維持するのに欠かせません。
▶抗酸化作用
ビタミンB1には抗酸化作用もあります。酸化ストレスは細胞や組織に損傷を与え、様々な疾患の原因になってしまう可能性があります。
ビタミンB1は、細胞を酸化ストレスから保護し、細胞の健康を維持するのにも役立ってくれます。
参考文献:【1】
ビタミンB群の働き
ビタミンB群は全部で8種類あり、ビタミンB1もそのうちの1つです。
ビタミンB群は様々な酵素の補酵素として働いています。お互いが関係し合って働いているために、まとめて「ビタミンB群」と呼ばれているのです。
▶酵素とは
私たちの健康は、私たち自身の目に見えない体の中で様々な化学反応が起こることで成り立っています。近頃は酵素ドリンクやサプリメントなどを目にすることも多くなりましたね。酵素とは、体の中で食べたものを消化・吸収したり、代謝の反応を引き起こしたりする「触媒」としての働きがあるタンパク質のことを言います。
体内で起こる反応には、酵素が不可欠と言えます。多くの酵素の中にはタンパク質のみで活性を発現するものもあれば、酵素のみでは活性がなく、活性を起こすために助けが必要なものもあります。ビタミンB群は、私たちの体で起こる様々な化学反応を助ける補酵素としての役割をもつ栄養素なのです。
ビタミンB1の摂取の仕方
一般的に成人の場合、男性は1日あたり1.4 mg、女性は1.1 mgのビタミンB1摂取が推奨されています。
妊娠中や授乳中の女性、アルコールを日常的に摂取する人は、より多くのビタミンB1を必要とする場合があります。
ビタミンB1は、水溶性であるため、過剰摂取した場合でも体内に蓄積されません。一度に大量に摂取しても、汗や尿に溶けて排泄されるため、毎日コンスタントに摂取したい栄養素です。また、水溶性であり、過剰な分は排泄されるため、副作用のリスクは低いと言われています。
だからと言ってむやみやたらと過剰摂取するのではなく、医師の指示に従って摂取量を調整することが重要です。
参考文献:【2】
ビタミンB1を多く含む食品
ビタミンB1は、豚ヒレ肉やウナギなど、肉類や魚類に豊富に含まれています。
特に、豚肉はスーパーで手軽に購入しやすい食品です。焼くだけ、茹でるだけなど、シンプルな調理でもおいしく食べることができるのは嬉しいですよね。
お子様の場合、「肉は硬くて食べづらい」という理由で苦手に感じることもあるかもしれません。その場合は麹につけて焼くことで、柔らかく食べやすくなります。日々の食事に豚肉を積極的に取り入れることで、ビタミンB1を上手に摂取しましょう。
まとめ
ここまでビタミンB1の摂取について述べてきましたが、ビタミンB1の体内効率を最大限に高めるためには、8種類あるビタミンBを、「群」として、複合的に摂ることが大切です。
なぜなら、糖質の代謝には特にビタミンB1が重要ですが、その代謝と連動している様々な代謝には、他のビタミンBすべてが必要となるためです。体内では様々な代謝活動が起こっていますが、各々が単独で作動しているわけではなく、歯車がいくつもかみ合っているように連動して作動しているのです。
ビタミンB1は、私たちの健康とエネルギーにとってまさに「縁の下の力持ち」のような、なくてはならない栄養素です。バランスの取れた食事を基本としながら、ビタミンB1を十分に補給することで、より健康維持に配慮できます。
ビタミンB1の必要量は、一人ひとりの健康状態や生活習慣によっても異なるため、栄養療法を行う医療機関など専門医などのもとで相談してみるとよいかもしれません。
日々忙しく、肉体疲労や、多くのストレスと戦う私たち現代人。エネルギーの産生を円滑にしてくれる栄養素であるビタミンB1をしっかり摂って、元気な毎日を過ごしましょう。
オーソモレキュラー栄養療法では、特定の不足栄養素を補う前に、基礎的な栄養素(主に、タンパク質、鉄、ビタミンB群)がヒトの体の土台作りの材料として重要と考えています。これらの栄養素の体内バランスを整えた上で、不足している栄養素を補うことで、健康維持や不調の改善を目指します。
参考文献
【1】岡井(東) 紀代香, 薙野 晴美, 山田 香, 岡井 康二(2006年)「ビタミンB群の過酸化脂質の生成における抗酸化作用と酸化促進作用について」、J-stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/28/4/28_KJ00004412058/_article/-char/ja/
【2】日本人の食事摂取基準 ビタミンB群
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4z.pdf
水流 琴音(つる ことね)
「暮らしのなかで自然にふれる」やさしい食を台所から育む
【所持資格】
管理栄養士、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所 認定ONP(7期)
【活動・経歴】
フリーランス管理栄養士として活動中。
オーソモレキュラー栄養療法を取り入れたクリニックで栄養カウンセラーとして勤務。
また、クリニックでの栄養療法の導入支援やスタッフ研修も行っている。
その他、フリーランスとして予防医療に関する発信や執筆、一般向けセミナー講師としても活動中。
【SNS】
Instagram
【認定ONPとは】
オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル(ONP)は、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所が認定する栄養カウンセラーの資格です。認定ONPはオーソモレキュラー栄養医学の正しい理論に基づく、栄養素の知識、血液検査データの解釈、病態別栄養アプローチ、食事指導のプロフェッショナルとして、医療機関などで活躍しています。
また、同法人では、一般の方を対象としたオーソモレキュラー栄養療法の概要、食生活の指針、食品・サプリメントについてなど、最先端の栄養健康学のポイントを学べるオーソモレキュラー・ニュートリション・サポーター(ONS)講座を開講しています。