鉄は乳幼児期の体や脳の発達に必要不可欠な栄養素です。鉄不足と言うと、「顔色が悪い」「貧血」をイメージする方もいると思いますが、特にそういった症状がない場合でも、お子様の体調に関する困りごとが、鉄不足と関連しているかもしれません。
こんなサイン、見逃していませんか?
子どもの日々の様子、体調から鉄不足を察知することができます。これらのサインが見て取れた場合、鉄不足の可能性があるので注意しましょう。
1 顔色が悪い、いつも疲れている
鉄不足で赤血球中の酸素運搬能力が低下し、貧血が起こります。その結果、顔色が青白くなったり、疲れやすくなったりします。栄養療法の診断を行うと、「頭痛や疲労感など体質と諦めていた症状が、実は鉄不足と関連していた」という患者さんも比較的多く見られます。
2 感染症にかかりやすい
鉄は免疫機能にも関与しています。不足すると体の抵抗力が下がり、風邪や感染症にかかりやすくなることがあります。
3 身長や体重の増加が遅れる
鉄は細胞の成長に必要です。不足すると、子どもの発育に影響が出る可能性があります。
4 注意力が散漫になる
鉄不足は脳の機能にも影響しています。鉄の不足により集中力や学習能力が低下することがあります。
5 成績がなかなか伸びない
鉄不足が続くと、子どもの認知機能や学習能力が低下し、学業成績や日常生活に支障をきたすことがあります。
6 イライラして癇癪を起こすことが多い
感情も「神経伝達物質」という脳内でつくられる物質によってコントロールされています。
鉄不足になると神経伝達物質の合成がうまく行われず、イライラしやすかったり、癇癪(かんしゃく)を起しやすくなったりすることがあります。
体の成長と鉄
成長期の子どもや思春期の青少年は特に鉄を十分に摂取することが重要です。特に、月経が始まる年齢になると、女の子の場合さらに多くの鉄が必要になることを覚えておきましょう。
1日で子どもが必要とする鉄の量
体はまだ小さくとも、子どもは大人と同じくらいの鉄が必要になってきます。
日本人の食事摂取基準によると、食事から摂取すべき鉄の推奨量は、30~49歳の男性7.5mg/日、女性11mg/日(月経なしの場合6.5mg/日)と言われています。一方、8~9歳の男児で8.5mg/日、女の子で8.0mg/日と言われ、大人に近い量または大人以上の量が必要とされています。
参考文献:【1】
鉄は骨の成長に必要
子どもは、骨が成長することによって大きくなりますが、丈夫な骨を作るには、カルシウムを骨の内側から支える「骨組み」の役割をするコラーゲンが必要です。このコラーゲンはタンパク質でできており、合成の際には、鉄とビタミンCが必要であると言われています。
骨を丈夫にするために必要な栄養素については、こちらの記事も参考になりますのでご覧ください。
脳の成長と鉄
鉄は脳の発達と機能においても重要な役割を果たしています。そのため、鉄不足になると「頑張りたいのに頑張れない」「集中力が続かず成績が伸びない…」など、学習面で影響が出てしまう可能性も…。
脳はエネルギーを多く消費するため、十分な酸素供給が必要です。鉄は、体に酸素を運ぶ重要な役割があります。鉄不足があると酸素供給が不足し、脳に十分栄養が回らなくなってしまい、集中力の欠如が起こることがあります。
スポーツをする子は鉄不足に注意
スポーツにおいても、鉄不足がパフォーマンスに及ぼす影響は重大です。
スポーツ選手やアクティブな運動をする子どもたちは鉄が失われやすいということに注意を払う必要があります。
1 酸素が充分に供給されなくなる
鉄は血液中のヘモグロビンとして体に酸素を運ぶ働きがあります。鉄不足があるということは、酸素が体内を十分にめぐらなくなるということです。
よって体力が続かなかったり、疲れやすくなったりパフォーマンスに大きな影響を与えます。
2 汗で失われる
汗は体温調節のために分泌される液体であり、運動や高温環境下での活動など、体が熱を放出しようとする際に発生します。このとき、体内の鉄も一緒に汗として失われることがあります。
特に、運動やスポーツを行う際には、汗を多くかくことが一般的です。長時間の運動や激しい運動によって、汗をかく量が増え、その結果として鉄が体外に排出されることがあります。
参考文献:【2】
ヘム鉄と非ヘム鉄の違い
では、子どもにどうやって鉄を与えてあげたら良いのでしょうか?
実は、鉄には種類が2種類あることをご存知ですか?鉄を効率よく摂るためには摂取源となる食品や吸収率などについて、それぞれの特性や違いを知っておくことが大切です。
ヘム鉄
動物性食品に多く含まれ、ヘモグロビンやミオグロビンなどのタンパク質と結合して存在しています。
ヘム鉄は非ヘム鉄に比べて体内での吸収率が高く、消化管からの吸収率では5~6倍になることが報告されています。
非ヘム鉄
植物性食品に主に含まれています。
非ヘム鉄はヘム鉄に比べて体内での吸収率が低い特徴がありますが、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収が促進されます。
まとめ
子どもが鉄を適切に摂取することは健康にとって非常に重要です。ヘム鉄と非ヘム鉄の違いを理解し、バランスの取れた食事を心がけたいですね。
また、定期的な血液検査や栄養バランスの考慮を通じて、鉄の摂取量を把握することも役に立ちます。子どもの健康のために正しい知識を身につけましょう。
オーソモレキュラー栄養療法では、特定の不足栄養素を補う前に、基礎的な栄養素(主に、タンパク質、鉄、ビタミンB群)がヒトの体の土台作りの材料として重要と考えています。これらの栄養素の体内バランスを整えた上で、不足している栄養素を補うことで、健康維持や不調の改善を目指します。
参考文献
【1】厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版) 鉄
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
【2】春日井淳、小笠原正志、伊藤朗(1992)「運 動 が 尿 ・汗 ・糞 中鉄 排 泄 お よ び 鉄 出 納 に 及ぼ す 影 響」、J-stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm1949/41/5/41_5_530/_article
水流 琴音(つる ことね)
「暮らしのなかで自然にふれる」やさしい食を台所から育む
【所持資格】
管理栄養士、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所 認定ONP(7期)
【活動・経歴】
フリーランス管理栄養士として活動中。
オーソモレキュラー栄養療法を取り入れたクリニックで栄養カウンセラーとして勤務。
また、クリニックでの栄養療法の導入支援やスタッフ研修も行っている。
その他、フリーランスとして予防医療に関する発信や執筆、一般向けセミナー講師としても活動中。
【SNS】
Instagram
【認定ONPとは】
オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル(ONP)は、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所が認定する栄養カウンセラーの資格です。認定ONPはオーソモレキュラー栄養医学の正しい理論に基づく、栄養素の知識、血液検査データの解釈、病態別栄養アプローチ、食事指導のプロフェッショナルとして、医療機関などで活躍しています。
また、同法人では、一般の方を対象としたオーソモレキュラー栄養療法の概要、食生活の指針、食品・サプリメントについてなど、最先端の栄養健康学のポイントを学べるオーソモレキュラー・ニュートリション・サポーター(ONS)講座を開講しています。