熱中症予防における水分補給のコツとタンパク質の重要性

 

暑さが厳しい季節が近づいてきました。毎年夏になると危険視されるのが、熱中症です。熱中症予防において適切な水分補給は必須ですが、それだけでは不十分なことをご存知ですか?
実は、熱中症対策をする上で、タンパク質も重要な役割を果たすのです。この記事では、体調を整えながら水分を効率よく摂取するコツと、熱中症予防におけるタンパク質の重要性について解説します。

熱中症が及ぼす健康リスク

熱中症は、私たちの体が正常に体温調節を行えなくなることにより発症します。熱中症にはいくつかの段階がありますが、軽度の症状であっても見過ごしてしまうと、重篤な状態に陥ることがあるため注意が必要です。

熱中症の危険性

熱中症は、体内の水分や塩分のバランスが崩れてしまうことで、上がった体温をうまく処理できなくなった状態を指し、夏の暑さや湿度の高さ、強い日差しの下、激しい運動を行った際に、発症しやすくなります。熱中症は単に体温が高くなるというだけではなく、脱水症状や体に必要な塩分が偏っていたり、不足していたりする状態を招き、放置すると重篤な状態に至ることがあります。特に、自身の体温の変化に気づきにくい幼児や高齢者、基礎疾患を持つ方は注意が必要です。
熱中症がもたらす代表的な症状には、頭痛めまい吐き気体のだるさなどがあります。これらの症状が現れた場合には、ただちに涼しい場所に移動し、水分と塩分を適切に摂取することが重要です。

水分補給が重要な理由

水分補給

水分不足は熱中症の原因となるだけでなく、脱水状態を引き起こし、集中力の低下や疲労感の増大など、日常生活にも支障をきたします。特に夏場や運動の前後は水分を意識的に摂りましょう。

また、水だけでなく塩分も大切です。汗をかくと水分とともに塩分も体から失われるからです。
塩分には神経や筋肉の働きを調整する、食欲や味覚を正常に保つなどの働きがあります。 そのために、塩分は、水分を保持しながら細胞外液量や循環血液の量を調整しています。
汗をたくさんかいたときは、塩分の補給も意識しましょう。

また、水分が不足していても喉の渇きを感じにくい人もいます。喉が乾いていない場合でも、水分はこまめに摂取するようにしましょう。

参考文献:【1】

スポーツドリンクの選び方と注意点

運動を行った後や暑い日には、体内の水分や塩分が失われやすいため、効果的な水分補給・塩分補給が必要です。
スポーツドリンクはよく水分・塩分補給という目的で使用されますが、実は、糖質が多く、血糖値が上がりやすいため注意が必要です。また、人工甘味料が使用されているものも多く、常飲することでかえってデメリットになってしまうケースがあります。
水分は水でこまめに摂取しつつ、味や風味をつけたい場合はミネラルが摂れる麦茶や手作りのスポーツドリンクをおすすめします。市販のスポーツドリンクの常飲はなるべく避けましょう。

人工甘味料を含む飲料に潜むリスク

人工甘味料を含む飲料に潜むリスク

多くのスポーツドリンクには、糖質を減らす目的で人工甘味料が使用されています。しかし、これらが健康に与える影響には注意が必要です。
人工甘味料はカロリーが低い一方で、過剰摂取や長期的な使用により腸内フローラ(腸内細菌叢)が変化し、血糖値のコントロールを悪化させてしまう可能性が指摘されています。

飲料にも使われることの多い人工甘味料「アスパルテーム」については、 WHO(世界保健機関)の専門機関が「発がん性の可能性がある」という見解を示しました。 

スポーツドリンクは手軽にミネラル補給ができる反面、危険性をはらんでいることも理解した上で、できるだけ安全な補給方法を選択することが大切です。

参考文献:【2】【3】

タンパク質と熱中症予防

熱中症の予防においては水分補給だけでなく、食事からのアプローチも大切です。中でも注目されている成分が、主に肝臓で作られるタンパク質である「アルブミン」です。

アルブミン(タンパク質)とは?

アルブミンは、私たちの血液中に存在しているタンパク質です。 血液中に100種類以上存在しているタンパク質のうち、約60%をアルブミンが占めています。
体が摂取した栄養素や薬の成分などを全身に届けてくれる働きをしているのもアルブミンです。

タンパク質というと、“体を作る材料になる栄養素”という印象が強く、熱中症とは結びつきにくく感じるかもしれません。アルブミンはどのように熱中症予防に役立つのでしょうか?

タンパク質の摂取が熱中症対策になる理由とは?

私たちの体は、汗をかくことで、体温上昇を防いでいます。この働きには、血管内の血液量が十分に保持できていることが重要です。
実は、アルブミンの大きな働きの1つには、「血管内の水分を保持する」ことが挙げられます。
このため、体内のアルブミンの量が少ない方は、もともと血管内の水分保持がうまくいっていないことから、気温上昇や運動の際、汗で体内の熱を外へ逃がすことができず、熱中症になりやすいというわけです。

参考文献:【4】

 日常生活でタンパク質を摂るには?

日常生活

熱中症の予防や、日々の健康管理のために、アルブミンというタンパク質が重要であることはお話しました。では、アルブミン値を向上させるにはどうすればよいでしょうか?

それは、日々の食事でタンパク質をしっかり摂取することです。タンパク質は肉や魚、大豆製品や卵などに含まれています。

厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」によると、1日に必要なタンパク質の推奨量は、成人男性が65g、成人女性が50gとされています。タンパク質は食べ溜めすることができません。そのため、毎食タンパク質を摂取することが大切です。
1日3回の食事だけで補えない場合は間食にサラダチキンやカニカマなどを取り入れるなどして、積極的に摂取しましょう。

参考文献:【5】

まとめ

熱中症予防には、水分の適切な補給と、アルブミンをはじめとするタンパク質が鍵を握ります。特に暑い季節には、これらの対策をしっかりと行いましょう。日頃から熱中症に対する意識を高めておくことが大切です。
体調が優れない時などは特に注意を怠らずに、場合によっては病院を受診しましょう。

オーソモレキュラー栄養療法の基本

オーソモレキュラー栄養療法では、特定の不足栄養素を補う前に、基礎的な栄養素(主に、タンパク質、鉄、ビタミンB群)がヒトの体の土台作りの材料として重要と考えています。これらの栄養素の体内バランスを整えた上で、不足している栄養素を補うことで、健康維持や不調の改善を目指します。

参考文献

【1】山中英治 ナースが知っておきたい栄養の基本と栄養サポートの進め方「体液の分布と浸透圧」 ディアケア
https://www.almediaweb.jp/nutrition/part1/04.html

【2】櫻井勝(2017) 「人工甘味料と糖代謝」 農畜産振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001494.html

【3】農林水産省 国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html

【4】日本血液製剤協会 アルブミンについて
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/albmen/alb_01.html

【5】厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年版 たんぱく質
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html

監修
水流琴音

水流 琴音(つる ことね)

「暮らしのなかで自然にふれる」やさしい食を台所から育む

【所持資格】
管理栄養士、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所 認定ONP(7期)

【活動・経歴】
フリーランス管理栄養士として活動中。
オーソモレキュラー栄養療法を取り入れたクリニックで栄養カウンセラーとして勤務。
また、クリニックでの栄養療法の導入支援やスタッフ研修も行っている。
その他、フリーランスとして予防医療に関する発信や執筆、一般向けセミナー講師としても活動中。

【SNS】
Instagram

【認定ONPとは】
オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル(ONP)は、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所が認定する栄養カウンセラーの資格です。認定ONPはオーソモレキュラー栄養医学の正しい理論に基づく、栄養素の知識、血液検査データの解釈、病態別栄養アプローチ、食事指導のプロフェッショナルとして、医療機関などで活躍しています。
また、同法人では、一般の方を対象としたオーソモレキュラー栄養療法の概要、食生活の指針、食品・サプリメントについてなど、最先端の栄養健康学のポイントを学べるオーソモレキュラー・ニュートリション・サポーター(ONS)講座を開講しています。