子どもに健やかに育ってほしいと願う親にとって、おやつの問題は、頭を悩ます課題です。栄養療法では、成長期の子どもたちにとっておやつは「栄養を補うもの」と考えます。選び方にもコツがあります。本記事では日々のおやつ選びに悩む保護者の方々へ、子どもの健やかな成長を支える「おやつ」についてご紹介します。
おやつが子どもの成長に与える影響
おやつと聞くと、多くの方が甘いものやスナック菓子を思い浮かべるかもしれませんが、それらだけがおやつではありません。例えば、ミートボールや焼き鳥などのタンパク質もおやつになります。また、おやつを取り入れるにあたっては、糖質や脂質の摂り過ぎに気をつけなければなりません。
食事で摂り切れない栄養を補う
おやつの最も大きな目的の1つは、「エネルギーの補充」です。子どもの体は、成長するために常に全身で細胞分裂を続けており、そのためにエネルギーを必要とし続けています。
一方で、子どもの小さな胃袋では1日3回の食事だけではエネルギーを摂取しきれないこともあります。また、食事と食事の間隔が開いてしまうことで一時的にエネルギー切れになってしまうこともあります。
そのため、お子様の食欲や、一度に摂取できる量を考慮しながら、おやつを上手に利用することが望ましいです。エネルギー源としての利用の他には、カルシウムが豊富な小魚、食物繊維が豊富な野菜スティックなどを選ぶことで、その他の栄養も補うことができ、バランスの取れた栄養摂取が可能になります。
活動量に合わせた摂取をする
子どもの一日の活動量は大人とは比べ物にならないほど多く、その分だけエネルギー消費も激しいものです。おやつは、この高いエネルギー需要を満たす手段として有効です。特に、運動の前後や長時間の外出時には、適切なおやつの提供が子どもの体力維持に役立ちます。活動量に見合ったおやつを選ぶことが大切です。
3~5歳児の1日の必要エネルギー量は、男の子で1,300kcal、女の子で1,250kcalと、体は小さくても必要なエネルギー量が多いということを覚えておきましょう。活動量に合わせた摂取のために、適切なエネルギーの補給を心がけます。例えば、運動した日や活動が多かった日には、小さなおにぎりをいくつか用意して、こまめに食べさせるなど、エネルギー不足にならないような配慮をすることが大切です。ごはんにシラスやおかかを混ぜた具だくさんのおにぎりにすることで、タンパク質やミネラルも摂取することができます。
足りない栄養を補う「補食」としてのおやつを通じて、子どものエネルギーレベルを保つよう心がけましょう。
参考文献【1】
おやつ選びの秘訣
育児をする上で、便利で手軽な市販のおやつに、手が伸びてしまいがちです。しかしそこには意外な落とし穴が存在します。子どもにおやつを用意する際には、次に挙げる栄養素に気を付けて選んでみてください。
糖質
糖質は子どものエネルギー源として重要ですが、注意が必要です。
市販のおやつには、人工甘味料が使用されている場合が多いです。カロリーが低いという理由で人工甘味料が好んで選ばれることもありますが、子どもの体にとって喜ばしいこととは限りません。人工甘味料による甘味は、自然な糖分に比べて強い味覚反応を引き起こしやすく、これが結果として食欲を亢進(こうしん)させたり、本来の甘味に対する感覚を狂わせたりする可能性が懸念されています。加えて、一部の人工甘味料は、体内への悪影響を懸念する議論もあり、特に子どもの未熟な体においては過剰摂取に注意が必要です。
また、糖質の急激な摂取は、子どものメンタルヘルスにも影響を与える可能性があります。気分の起伏が激しくなったり、集中力が低下したりする原因になることがあるため、糖質の量と質にも配慮が必要です。
参考文献【2】
タンパク質
タンパク質は、子どもの体の材料となる重要な栄養素です。成長期の子どもにとって、十分なタンパク質の摂取は欠かせません。おやつでもタンパク質を意識的に取り入れることで、より効果的な栄養補給が可能になります。
例えば、豆乳ヨーグルト、おからを使ったケーキなどはタンパク質も摂取できます。
脂質
スナック菓子のように、油で揚げて作られているものには、健康に悪影響を与えると言われている「トランス脂肪酸」が多く含まれていることが多いです。また、クッキーやチョコレート菓子にも、食感をよくするためにトランス脂肪酸が使われているケースが多いです。
お菓子を選ぶ際は、原材料の欄をチェックしてみましょう。「植物油」「ショートニング」が上位に書かれているものは、トランス脂肪酸がたくさん使われている可能性が高いため、要注意です。
加えて、過剰な脂質摂取は肥満の原因になりやすく、将来的な生活習慣病のリスクを高めることも知られています。健康的な成長のためには、脂質の使用が控えめなおやつを選ぶことも肝心です。
参考文献【3】
おやつ選びの秘訣とおすすめ食品
では、どんな製品を選べばよいのか迷うことが多いでしょう。おやつ選びの秘訣は、食事で補えない栄養を手軽に摂れることです。子どものエネルギー源になりつつ、栄養素が摂れるものが適しています。
タンパク質が摂れるおやつ
タンパク質は、子どもが日常の食事で不足しがちな栄養素の1つです。小魚はタンパク質の他、カルシウムや鉄を含んでいます。小分けにして売られているので、外出先で子どもが「お腹すいた~!」と言う時のおやつとしても便利です。
お菓子だけがおやつではありません。焼き鳥やゆで卵などは食べごたえがあり、満足度もあるおやつとしておすすめです。
血糖値を上昇させにくいおやつ
血糖値の上昇は、子どもの健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、おやつを選ぶ際には注意が必要です。例えば、癇癪(かんしゃく)が起こりやすかったり、キレやすかったりする子どもは、血糖値コントロールがうまくいっていないことによる交感神経のバランスの乱れから、癇癪が起こることもあります。
健康な子はそこまで神経質になる必要はありませんが、肥満気味、メンタルの不安定な子は、糖質の摂りすぎからくる血糖値コントロールが影響している場合もあります。食事の時には、最初に豆乳を飲んでからおやつを食べるなど、食べる順番を工夫してあげるとよいでしょう。
ナッツは食べごたえもあり、血糖値を上昇させにくいおやつとしてもおすすめです。
手作りのおやつ
子どもたちは甘いおやつが大好きなものです。しかし、市販のおやつに含まれる人工甘味料や砂糖は、血糖値の急激な上昇を引き起こすことがあり、子どもの健康を考える保護者にとっては気がかりでしょう。と言っても、すべて1から手作りする必要はありません。
冷凍枝豆を電子レンジで温めるだけでも、良質なタンパク質も摂れるので、おやつとしておすすめです。ミニトマトを小さなピックに刺すだけで見た目も楽しく、立派なおやつになります。これらのおやつは、特別な調理技術や時間を必要とせず、おやつの時間を通じて、子どもと一緒に食べ物について話したり、簡単な準備を手伝ってもらったりすることで、食育の機会にもなります。
このように、手軽で栄養価の高いおやつを日常的に取り入れることで、子どもの健康的な成長をサポートすることができます。手作りが好きな方は、人工甘味料ではないエリスリトールや羅漢果(ラカンカ)エキスなどを原料とした、血糖値に影響の少ない甘味料を活用してみてください。
まとめ
毎日の食事と同じように必須の子どもの「おやつ」。食事で補いきれないタンパク質を意識して摂ること、活動量に合わせたエネルギー量を確保することが大切です。血糖値に影響のないよう、食べるタイミングや順番にも気をつけながら、日々のおやつでお子様の栄養補給をしてあげてださいね。
オーソモレキュラー栄養療法の基本
オーソモレキュラー栄養療法では、特定の不足栄養素を補う前に、基礎的な栄養素(主に、タンパク質、鉄、ビタミンB群)がヒトの体の土台作りの材料として重要と考えています。これらの栄養素の体内バランスを整えた上で、不足している栄養素を補うことで、健康維持や不調の改善を目指します。
参考文献
【1】厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020年版 乳児・小児
【2】独立行政法人 農畜産業振興機構 人工甘味料と糖代謝
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001494.html
【3】農林水産省 トランス脂肪酸の摂取と健康への影響
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/trans_eikyou.html
水流 琴音(つる ことね)
「暮らしのなかで自然にふれる」やさしい食を台所から育む
【所持資格】
管理栄養士、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所 認定ONP(7期)
【活動・経歴】
フリーランス管理栄養士として活動中。
オーソモレキュラー栄養療法を取り入れたクリニックで栄養カウンセラーとして勤務。
また、クリニックでの栄養療法の導入支援やスタッフ研修も行っている。
その他、フリーランスとして予防医療に関する発信や執筆、一般向けセミナー講師としても活動中。
【SNS】
Instagram
【認定ONPとは】
オーソモレキュラー・ニュートリション・プロフェッショナル(ONP)は、一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所が認定する栄養カウンセラーの資格です。認定ONPはオーソモレキュラー栄養医学の正しい理論に基づく、栄養素の知識、血液検査データの解釈、病態別栄養アプローチ、食事指導のプロフェッショナルとして、医療機関などで活躍しています。
また、同法人では、一般の方を対象としたオーソモレキュラー栄養療法の概要、食生活の指針、食品・サプリメントについてなど、最先端の栄養健康学のポイントを学べるオーソモレキュラー・ニュートリション・サポーター(ONS)講座を開講しています。