鉄とは?
鉄は、私たちの体にとって重要なミネラルです。役割は多岐に渡り、心と体の健康維持に欠かせない栄養素です。
鉄不足というと、貧血でくらくらと立ちくらみしてしまうイメージがあるかもしれませんが、貧血の症状はめまいだけではなく、頭痛や疲労感など別の不調に悩まされるケースも多いと言われています。このような場合、貧血の一歩手前の「隠れ貧血」の状態になっていることも少なくありません。
特に女性は月経や出産で多くの鉄を失うため、全体の5人に1人が鉄不足とも言われています。男性でも筋肉トレーニングやスポーツをする際に、汗によって大量の鉄が失われ、鉄不足に陥ることがあります。
鉄のはたらき
- 赤血球を作る
- 体内に酵素を運ぶ
- 骨・皮膚・粘膜の代謝に働く
- コラーゲンの生合成に働く
- 白血球・免疫に影響する
- 知能・情動に影響する
- 消化管に影響する
- 筋肉を収縮させる
鉄不足って誰にとっても身近なんだね。
女性の体と鉄不足の関係は?
女性の体は生まれてから閉経に至るまで、どのライフステージにおいても、鉄を多く消費することが分かっています。多くの女性が鉄欠乏に陥りやすく、「PMS(月経前症候群)」など女性特有の症状は、鉄欠乏と強く関連しているケースが多いと言われています。
また、成長期は男女ともに体の成長に伴って血液量を増やす必要があり、それに伴って鉄を含む赤血球も増産させる必要があります。
さらに、現代では偏食や無理なダイエットにより、「鉄を多く含む食材」の摂取が減ってしまうケースも見られます。
鉄不足の女性って、思っているよりたくさんいそうだね!
貧血と診断されなくても、鉄不足?
「貧血」と診断されていないのに、立ちくらみ、めまい、慢性的な疲労感など、まるで「貧血のような症状」がある方は、鉄不足が原因かもしれません。
「貧血じゃないのに鉄不足?」と思われるかもしれませんが、実は貧血の一般的な診断基準である「ヘモグロビン」は正常値でも、鉄が不足している場合があります。
オーソモレキュラー栄養療法では、鉄の充足度を正確に判断するため、「フェリチン(貯蔵鉄)」の値を重要視しており、このフェリチン(貯蔵鉄)の値が低いと、体内の鉄は不足状態である場合が多く、それによって様々な症状が引き起こされるのです。
鉄が不足するとどうなるの?
鉄が不足すると、様々な不調の要因となります。
例えば、全身の倦怠感、頭痛、めまい、眠気、抑鬱(うつ)症状、耳鳴り、食欲不振、集中力の低下、皮膚・粘膜の不調、動悸・息切れなどの症状があります。
栄養療法のクリニックを受診する患者さんの中には、「めまいや立ちくらみの症状で悩んでいたが、まさか鉄不足とは!」というケースも多いです。
様々な悩みの要因として、鉄不足が疑われます。
もしかして鉄不足!?
※3つ以上該当したら鉄不足の可能性大
- 立ちくらみ、めまい、耳鳴りがする
- 肩こり、背中の痛み、関節痛、筋肉痛
- 頭痛、頭が重い
- 力が弱くなった
- よくアザができる
- 喉に不快感(つかえ感)がある
- 階段を上ると疲れる
- 夕方に疲れて横になることがある
- 生理前に不調になる
- 生理の出血量が多い
鉄不足の症状って人それぞれなんだね。
エネルギー作りに欠かせない鉄。
鉄は、私たちの体内でエネルギー産生に重要な栄養素です。エネルギーとは、私たちが日常生活で体を動かすための原動力です。
鉄はヘモグロビンの構成成分として、「酸素」を体の隅々まで届ける役割に欠かせません。
鉄欠乏の人の場合、酸素を十分に供給できないので、エネルギー産生がスムーズに行えなくなってしまいます。
階段を上るだけで息切れがする、ペットボトルの蓋が開けられないなど、日常の中でパワー不足を感じている方が、結果として鉄不足だったというケースも栄養療法ではよく見られます。
鉄って体を動かすために欠かせないんだね。
鉄は、心のコントロールにも重要!
感情や集中力、睡眠は「神経伝達物質」という脳内で情報伝達をしている物質によってコントロールされています。
やる気や集中力に関わる「ノルアドレナリン」、良質な睡眠に影響する「メラトニン」、幸福感・充実感をつかさどる「GABA」などです。
これらを合成するには、タンパク質が欠かせませんが、同時に求められるのが「鉄」です。
特に、「ノルアドレナリン」「メラトニン」の合成には鉄が不可欠です。
そのため、鉄不足が、鬱(うつ)などの心の不調に影響する場合があるのです。
鉄は、肌や免疫とも深い関わり!?
コラーゲンを作り出すには、「タンパク質」と「ビタミンC」、そして、「鉄」も必須要素の1つです。
コラーゲンと聞くと「肌に良いイメージ」を持つ方も多いかもしれませんが、コラーゲンは皮膚に限らず、粘膜や骨、靭帯、血管などを構成しています。
鉄不足は、コラーゲンの生成を遅らせます。肌の弾力やみずみずしさが失われ、肌トラブルの引き金となります。
また、コラーゲンは免疫とも関わりがあります。コラーゲンが不足すると、粘膜のバリア機能が低下し、風邪などに感染しやすくなるリスクが上がります。
風邪予防ってビタミンCだけじゃダメなんだね。
「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の違いは?
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。非ヘム鉄に比べてヘム鉄は体への吸収率が高いとされています。
ヘム鉄は、肉や魚など動物性の食品に含まれます。
非ヘム鉄は、ヒジキ、ホウレンソウ、プルーンなど、植物性食品に多く含まれます。
医療機関における保険診療で処方可能な経口鉄剤は、いずれも非ヘム鉄です。鉄サプリメントを選ぶ際には、ヘム鉄を選ぶか、非ヘム鉄の中でも吸収率にこだわったものを選ぶようにしましょう。
ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収率
鉄を摂取できる食事って?
厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」では、20歳以上の女性の推奨される鉄の摂取量(1日)は「17.0〜18.9㎎」とされています。一方で、令和元年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、20代女性の平均鉄摂取は「7.4㎎」、30代は「7.2㎎」と、推奨量に比べて大幅に摂取が足りていないことが報告されています。
鉄は、赤身の肉(牛肉、豚肉など)、レバー、赤身の魚(マグロ、カツオなど)に含まれます。
胃酸によっても吸収が促進されるので、よく噛んで食べることも大切です。
コーヒー、紅茶、緑茶が好きな方は要注意です。コーヒーやお茶に含まれる「タンニン」は、鉄の吸収を阻害してしまう働きがあるからです。鉄不足に気をつけるなら、食後のコーヒーやお茶の飲み過ぎには注意しましょう!
オーソモレキュラー栄養療法で推奨される1日に摂りたい「鉄」の目標量27mgを食品で摂るには?
鉄を普段の食事で摂るのって結構難しいんだね…食べ合わせも大事だね!
オーソモレキュラー栄養療法の基本
オーソモレキュラー栄養療法では、特定の不足栄養素を補う前に、基礎的な栄養素(主に、タンパク質、鉄、ビタミンB群)がヒトの体の土台作りの材料として重要と考えています。これらの栄養素の体内バランスを整えた上で、不足している栄養素を補うことで、健康維持や不調の改善を目指します。
参考文献
【1】
1)Bjorn-Rasmussen, E. et al. (1974). The Journal of clinical investigation, 53(1), 247-255.
2)Young M. F. et al. (2010). The Journal of nutrition, 140(12), 2162-2166.
3)Hallberg, L. et al. (1979). Scandinavian journal of gastroenterology, 14(7), 769-779.
【2】出典:文部科学省 日本食品標準成分表2015(七訂)※調理により損失の可能性があります。